イマを創る、先輩がいる — 小原泉さん

建物をもっと強く、もっと 自由に株式会社フジタ 技術センター 建築第二研究部 小原 泉

建物をもっと強く、もっと 自由に株式会社フジタ 技術センター 建築第二研究部 小原 泉

建物をもっと強く、もっと 自由に

株式会社フジタ 技術センター

建築第二研究部

小原 泉

進路 物理が苦手。理系の選択には不安も 進路 物理が苦手。理系の選択には不安も

物理が苦手で、理工系大学への進学には不安もありました。最終的に理系を選んだのは、職業へ直結している学問領域だから。なかでも理論と感性が融合している建築学に惹かれました。

バイブル 今でも大活躍する、大学時代の教科書 バイブル 今でも大活躍する、大学時代の教科書

構造力学は基礎理論が確立されている分野なので、発展的な技術を学ぶときにも、大学時代の教科書が活躍します。基礎を確認するにはこれが一番。50年以上前に著された本もあり、ほかの研究員も同じ本を持っていたりします。

バイブル 今でも大活躍する、大学時代の教科書

研究テーマ 模型設計が難しい!屋根型円筒ラチスシェル 研究テーマ 模型設計が難しい!屋根型円筒ラチスシェル

研究テーマは体育館などに採用される「屋根型円筒ラチスシェル」という構造の地震による応答評価。苦労したのが実験で使う模型の設計です。そのまま縮小すると実物より頑丈になってしまうので、性状を再現するのに工夫を重ねました。

研究テーマ 模型設計が難しい!屋根型円筒ラチスシェル

発見 建築の新たな見方 発見 建築の新たな見方

様々な力のバランスが計算された設計は、ひとつひとつに無駄がなく、機能美を感じさせます。構造という角度からアプローチすると、建築の新しい魅力が見えてきます。

趣味・部活 芸術に触れ、仲間と過ごす大切な時間 趣味・部活 芸術に触れ、仲間と過ごす大切な時間

デザインや文学に触れるのも好き。高校時代はよく図書室に通っていました。大学では「コールクライネス」という合唱サークルに所属。他大学のメンバーも多く、幅広い友人関係を築けました。今でも交流が続く仲間たちです。

趣味・部活 芸術に触れ、仲間と過ごす大切な時間

エネルギー源 娘を含めた次世代に安全な社会を エネルギー源 娘を含めた次世代に安全な社会を

技術の発展がより良い未来を生み出していく。そこに、やりがいを感じています。地震や災害に強い、快適な建物づくりを可能にして、娘を含めた子どもたちに安心・安全な社会を渡していきたいという思いが、研究の原動力です。

エネルギー源 娘を含めた次世代に安全な社会を

Profile

  • おはら・いずみ
  • 2002年
  • 東京工業大学 第6類 入学
  • 2006年
  • 同大学院理工学研究科
    建築学専攻入学
  • 2008年
  • 株式会社フジタ入社
  • 2014年
  • 第一子出産を経て育児休暇取得
  • 2015年
  • 現職に復帰

志望大学決定時は文系か理系かで悩みながらも建築を学ぶため、東工大に進学。そこで建築構造の面白さに目覚めた小原泉さん。総合建設会社・フジタの研究員として、主に鉄骨造の建築構造の研究や、装置の設計・開発、コンサルティングに従事する現在までの歩みを聞きました。

建築構造の専門家として、制振構造の研究や耐震部材の開発に携わっています。2014年にリリースした座屈拘束(ざくつこうそく)ブレースは、その成果のひとつ。計画から実証実験、製品化に向けた設計までを担当しました。ブレースとは、建物の耐震部材として斜めに設置する細長い部材のことで、軸方向の圧縮に対し、たわんで壊れる現象(座屈)を起こりにくく(拘束)したものが、座屈拘束ブレースです。

今回の開発で目指したのは、そんな座屈拘束ブレースを、低コストで製造でき、建設現場でも施工しやすい、より軽い部材に進化させること。耐震機能はもちろん、収益性も兼ね備えたブレースとするために、素材や形状など、様々な視点から検証を重ねました。仮説を立て、実験で確かめながら、設計を通じて具現化していく一連のプロセスは研究の醍醐味ですが、一度実験が始まれば、2、3ヵ月は実験棟に通い詰めになります。それでも、思いどおりの結果が得られた瞬間には苦労が吹き飛んでしまいました。

すでに病院やビル、大型倉庫などに、このブレースが採用されています。建物はこの先50年、60年先という長いスパンで受け継がれていくもの。耐震技術を前に進めていくことが、建物の安全を支え、この先何十年も人々を守っていく。そう考えると、感慨深いものがあります。

「構造」という異なる角度から光を当てる

建築といえばまず「デザイン」。高校生の頃はそんなふうに考えていました。東工大に進み、建築構造の知識を深めるうちに、それまでの見方ががらりと変わりました。見慣れていた建物に、まったく異なる表情があることに気づいたのです。

「構造」は建物の基礎に関わるだけに、建物のデザインや設計のあり方そのものを左右する力を持っています。構造に関する技術を進歩させることができれば、建物の可能性をもっと広げていける分野なんです。

例えば、100年前の姿を再現したJR東京駅丸の内駅舎。免震装置の発達がなければ保存・復元工事は実現しなかったでしょう。大学生のときに感銘を受けたのは、国立代々木競技場の体育館でした。屋根が斜めにつり下げられた一風変わった意匠性の高い建物に見えます。けれどその独創的な造形の中に、高度な構造計算が反映されている。単にデザイン性を高めたのではなく、屋根にかかる負荷が均衡するよう、力の伝わり方を非常にうまくコントロールしているんです。

あらゆる建物に使用できる装置やシステムの開発を担うことで、より多くの建物をもっと強くすることができる、さらには建物をもっと“自由”にすることができる。建築構造の研究を選んだのは、そこに可能性を感じたからだと思います。

少しでも興味があれば、ためらわず飛び込む

約1年の産休・育休を経て、職場復帰しました。研究職を続けることに迷いはありませんでしたが、やはり子育ては大仕事。育休明けは、研究に時間を取れなくなることへの不安もありました。比較的スムーズに研究現場に戻れたのは、大学時代から身につけてきた構造力学や設計などの知識の蓄積のおかげです。地道に積み重ねてきた基礎的な力が、復職を助けてくれました。

私の場合、はじめから建築構造の専門家を目指していたわけではありません。むしろ高校生の頃は物理が大の苦手で、理工系大学に進学するかどうかを悩んでいたほど。ときには心理学や言語学を学んで文系の道を探ってみたりと、回り道もしました。

けれどそのおかげで、一生をかけて取り組める研究に出会うことができたと感じています。高校生の皆さんも、少しでも興味がある分野があれば、ためらわず飛び込んでほしいと思います。予想と違ったり、思いがけない発見があったり。そんな経験を重ねるうちに、きっと進むべき道が見えてくるはずです。

(2015年取材)

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email : pr@jim.titech.ac.jp