ミリ波を使った世界最速の無線機を開発
大学院理工学研究科電子物理工学専攻
岡田健一 准教授
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設計した回路が想定した性能を実際に発揮するかどうかを測定する装置。微小な針を1,000分の1mm単位で操作して回路と接触させ、電気を流して測定する。
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岡田研が開発した電子回路。研究室では、まず回路の設計を行い、できた回路をコンピュータ上でシミュレーションしている。大きさは5mm角にも満たない。まさに職人技の結晶だ。
世界最速の通信速度の実現
携帯電話、パソコン、ゲーム機など、わざわざ線でつなげなくても通信することができる機器は、ここ数年で私たちの身の回りに増えてきています。しかし、光ファイバ通信など有線通信と比べると、容量の大きなデータを高速で流す性能はまだ劣っています。
岡田准教授の研究室では、アンテナや電源がなくても、より速く、より遠くへ、途切れることなく、送信・受信することができる、そんな「究極の無線」の開発に取り組んでいます。
実用化されている無線LANの通信速度は、最大で300Mbps。有線LANでは無線より高速の1,000Mbps(1Gbps)の速さが実現されています。一方、岡田准教授が達成した通信速度は、有線LANをさらに上回る11,000Mbps(11Gbps)、「世界最速の通信速度」を誇ります。10,000Mbps(10Gbps)以上の無線通信なら、ビデオカメラで撮影した高画質な動画をリアルタイムで送信してパソコンやプロジェクタに映し出すこともできます。
では、岡田准教授は、どのようにしてこの超高速な無線通信を実現できたのでしょうか。現在、無線LANなどに最も多く使用されている5GHzの周波数帯の最大速度は、理論上300Mbps以上にするのが難しいことがわかっています。そこで岡田准教授はさらに速度を上げるため、ミリ波と呼ばれる60GHzの周波数帯を利用し、かつこれまで誰も成し得なかった、ある方法を用いた無線機を作りました。それが16QAM変調に対応したダイレクトコンバージョン型の無線機です。
これまで報告されているミリ波無線機のほとんどが入力信号の周波数を異なる周波数に2段階で変換する「ヘテロダイン方式」を活用したもので、これでは部品の数も多く、消費電力も大きなものになってしまいます。
そこで、岡田准教授の研究室では、周波数の変換を1段階で行うことができる「ダイレクトコンバージョン方式」と、一度により多くの情報を送ることができる16QAMという方法を用いました。ダイレクトコンバージョン方式と16QAM変調を同時に達成したのは、世界初のこと。この成功が、11,000Mbps(11Gbps)という高速通信を実現したのです。
未開の分野への情熱
ダイレクトコンバージョン方式を使ったミリ波無線機は、これまでにもいくつか事例がありましたが、16QAM変調に対応できていなかったり、外付けのアンテナを用いたものでした。しかし、岡田准教授の無線機のアンテナは内蔵型。消費電力も小さく、携帯電話等の小型無線端末にも搭載可能なのです。実際にこの通信を行っている装置は、5mm角にも満たない小さな電子回路です。配線の幅はわずか10万分の数mmしかありません。研究室では、まずこの回路の設計とシミュレーションをコンピュータ上で行います。そして作製した回路を検査し、目的の性能が実際に発揮されるかどうかを確かめていきます。この回路の設計には、設計者それぞれの個性が出てくると岡田准教授は言います。出来上がりの美しい回路は性能も良いものが多く、どこの研究室の作品かが見た目でわかったりするそうです。
岡田准教授の学生時代からの変わらない思いは、常に誰もやっていないことに挑戦していくこと。「研究に必要なのは、どれだけ情熱を注げるか。これからも、今の世の中に必要とされているものを開発していきたいと思っています。」
岡田准教授の研究が、私たちの生活をより豊かにしてくれる日もそう遠くないかもしれません。
准教授 岡田健一
- 高周波回路(RF回路)に関する研究を主とする。
- 「リコンフィギュラブルRF回路設計技術の研究」で文部科学省「若手科学者賞」を受賞。
(2011年取材)