理工系の学生は「正解はひとつ」という先入観を持ちがちですが、実社会では正解のない問いが多いもの。文系の学問を学ぶにあたり、そのことに最初はとまどうかもしれませんが、そんな学生たちに様々な物の見方のある世界の面白さと豊かさを実感してもらうことにやりがいを感じています。講義にはワークショップ形式を取り入れ、少人数でのディスカッションを多く行っています。また、バリ島のケチャをシャウトして実演するという、体験型の講義も行います。
よりパワーアップした本学のリベラルアーツ教育では、入学1年目から様々な体験に誘います。東工大生は「やればできる子」。好奇心を持ち続け、社会的な問題、グローバルな問題にも果敢にチャレンジして、一人ひとりの優秀さをどんどん伸ばしていってほしい。この新しいリベラルアーツ教育は、今、日本中から注目されています。学生同士の深い関わり、先生との人間的な関わりの中で自分自身がどんどん成長できる場がここにあります。ぜひ、その刺激的な場に飛び込んできてください。待ってます!
東工大には「理論」を重んじる賢い学生が多く、講義をわかりやすくするために具体的なエピソードを利用する場合でも、その具体的な話を貫く「理論」や「思想」まできちんと説明しないと学生たちに軽く流されてしまう。十分気をつけようと思います(笑)。
受験生・高校生の皆さん、大きな夢と野心を持って東工大にチャレンジしてください。きっとそれに答えられる環境、教員、仲間と出会えることでしょう。
在学生を含む若い皆さんに私が言いたいことは、「若者よ、旅せよ、恋せよ、大志を抱け!」。まずは若いうちに、世界の様々なところを旅してみてください。常識が揺すぶられ、壊れ、そして広がっていく体験を、ぜひ身を持ってしてほしい。ネット検索だけでは、生の世界は見えてきません。一人旅をすれば、すべては自己決定の連続で、鍛えられます。知らない世界は、危なく怖く感じられるものですが、ぜひ好奇心でそれを乗り越え、より大きな世界の無限の姿を感じてください。きっと途上国など知らなかった世界の体験が、皆さんの世界感を広げ、研究や仕事の意義を深めてくれます。
学士課程学生と大学院生向けに文学を教える私の講義は、小説を研究対象として文学史的にマッピング・グルーピングするのではなく、実作者=小説家の立場から、小説という表現形式の独自性、執筆中の作者の想いや目論見、作品が生成された「現場」を考えることで、より能動的に「小説とは何か?」を考えることを目的としています。
東工大で教え始める前は、理工系の学生が私の話に興味を持ってくれるか不安だったのですが、熱心に講義に聞き入る学生が多く、また、他大学文系学部(特に文学部)の学生より文学・小説に対する盲目的なリスペクトがない分だけ東工大生の方が自由な発想を持ち、小説家に必要なセンスを持っている学生も多いように感じました。実際に今、日本で活躍している現代文学の書き手に理系学部出身者が多い(むしろ文学部の創作学科出身の作家は少ない)ことが腑に落ちたような気がします。
学生も、教員も、ユニークでバラエティに富んだ人たちが集まっている東工大。そういう環境で学び、自分を磨いてみたいと思う方は、ぜひ東工大を目指してください。
リベラルアーツ教育で得た「教養」は平穏な日常においては、特に役立つことはありません。しかし、何らかの形で人生の前提が崩れた時(大切な人をなくした。信頼していた相手に裏切られた。会社が倒産した…)に大きな意味を持ちます。「あのとき読みかけの哲学書を読んでみよう」「あの映画をもう一度観てみよう」と想起できることは、人生の大きな財産です。この「引っ掛かりのインデックス」が多いほど、危機に強い人間になります。逆にこのインデックスをもっていない人は、大切な言葉やメッセージに到達する道筋を予め失っています。これを出来合いの教養ハウツー本で補うことはできません。若い時の「暇」や「無駄」によってしか得られない貴重なものです。
今、解らなくても何の問題もありません。むしろ「解ること」よりも、「解らないこと」を大切にしてください。「解らないもの」に対して、目一杯、背伸びしてください。そして、ちょっと億劫でも、書店やライブハウス、劇場に足を運んでください。「よくわからないけど、よかったな」という感触が、将来の人生を支えてくれることでしょう。
科学技術もアートも「ものつくり」という点では同じですが、両者のアプローチには違いがあります。私が担当するアート系科目では、アートのアプローチを知ることで、学生の皆さんに創造性や発想力を磨いてほしいと思っています。
東工大生は、文系の学生ならば「当たり前」で済ませてしまう根本的なことに対して疑問をぶつけてきます。たとえば、「偶然には価値があるのか」「なぜ人は言語を使うのか」など。それはいわばスタート地点の手前でつまずいているということなのですが、だからこそ根本に立ち返って一緒に考えることができることに、楽しさを感じます。そのためにも、学生達の「わからない」に向き合うことを大切にしています。一見 シャイだけど、ポテンシャルが高い東工大生の可能性を引き出すことが何よりの喜びです。
「とことんのめり込む」というのが東工大生の良さ。そこに教養がプラスされれば、好きなことを社会と結びつけ、自分の言葉で情熱的に語れるようになります。「オタク」の自虐を脱して、プライドある「ギーク(geek)」になってください。