サイエンスカフェのススメ
飲み物や軽食をとりながら、科学的なテーマについて、カジュアルな雰囲気の中で語り合おうという趣旨のイベントのこと。発表者が一方的に話をするシンポジウムや講演会スタイルではないのが特徴です。そのときのテーマについて、専門家が冒頭で情報提供することが多く、専門的知識のある方もない方も、それぞれの考えや経験を持ちよって「対等な立場」で議論をします。
2007年から定期的に行われている博物館でのサイエンスカフェ。今回のテーマは「計算で何ができるか?」です。アルゴリズム※の話や東工大が誇る日本を代表するスパコン「TSUBAME」の話題を中心に、「計算」が身近なことに利用されていることを説明。「巡回セールスマン問題」や「ナップザック問題」に参加者が挑戦したり、「数値シミュレーション」などを例に解説が行われていきました。
講師: |
グローバルCOE研究員(取材当時) |
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場所: |
東京工業大学百年記念館 |
※コンピュータで目的を達するためのやり方、効率的な手段
問題
宝石が8種類あります。
宝石の価格と重さは右記の通りとします。
このとき、価格ができるだけ大きくなるように袋に詰めるとしたらどのようにしたらよいでしょうか。
宝石の番号 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
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重さ(グラム) |
13 |
23 |
27 |
33 |
41 |
45 |
58 |
60 |
価格(億円) |
15 |
30 |
40 |
60 |
70 |
80 |
85 |
90 |
※ 問題の答えはページの下部にあります。
毎回、東工大の若手研究者の方々が講師を務める博物館サイエンスカフェ。参加人数が60名を超え、満員御礼の会場の中、講師の方々も少し緊張気味の様子。しかし始まってしまえば"研究内容を伝えること"の楽しさに、とてもいきいきとした表情を見せていました。参加者もはじめは「どんな雰囲気になるんだろう?」とちょっと不安げな表情でしたが、身近な事柄を例えにしたわかりやすい解説や、クイズ形式のゲームを取り入れた進行のおかげで、次第に話に惹き込まれていきます。おかげで講師の説明もついついヒートアップ。気がつけば終了予定時刻を延長して行われるほどの盛り上がりを見せました。参加者からの質問も活発に行われた今回のサイエンスカフェ。講師、参加者ともに"サイエンスな世界"にどっぷりと浸るひとときとなりました。
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竹山桃子さん
アルバイト/初参加
(取材当時)文系でスパコンを知らない私でも、とても楽しめました。道具を使った参加型のゲームなど、「ただ聴くだけじゃない」ところがよかったです。
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宇佐美明子さん
主婦/8回目の参加
(取材当時)毎回のように参加しているのですが、若い研究者の方々が、一般の方に向けてわかりやすく説明しようとする姿に好感が持てますね。
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佐々木涼さん
中学生/初参加
(取材当時)中学生の自分でも理解できるかなと不安だったんですが、とてもわかりやすくてためになりました。次回もぜひ参加したいです。
今回取材にもうかがった博物館サイエンスカフェは、大岡山キャンパスの百年記念館で定期的に行われています。発表者は、東工大の研究者が務めています。
「研究者には研究内容を一般向けにわかりやすく説明できるスキルも必要」という考えがあるのです。研究者にとっても一般の方々と接することができる貴重な場なのですね。
ここではこれまでに扱われたテーマを一部ご紹介します。
物理探査・遺跡調査
これであなたもトレジャーハンター!?
科学の力で遺跡を発見
遺跡発掘のための技術である「物理探査」の方法と、実際の遺跡での調査事例を紹介。参加者に国内外の貴重な遺跡での調査を"追体験"してもらいながらのやりとりとなりました。
コンピュータグラフィクス(CG)
コンピュータグラフィクスの世界
画面の向こうの天地創造
コンピュータによって作られた映像=コンピュータグラフィクス(CG)がテーマ。映画やゲームによく使われているモーション・キャプチャ・システム※を実際に動かして体験しました。
※現実の人間や物体の動きを、コンピュータを使ってデジタル的に記録する技術
言語科学
言葉の科学でお茶しませんか?
「言語」の世界をコンピュータの視点で見るという「言葉の科学」。「コンピュータを利用して言葉についてわかること」「外国人と日本語」などテーマは多岐にわたりました。
脳
見える! 脳の動き
脳の仕組みと働き、そして脳の活動を見る最新技術を紹介。人間の脳を外から見る新しい方法が生まれているなか、ここではNIRSという測定機器を使って実際に脳活動を見る体験も。
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其の一
発表者への質問は
いつでもOK!発表者が説明している場合でも、その内容について質問したいことがあれば、その場で気軽に質問をしてみましょう。自分が疑問に思っていることは意外に周りの人も疑問に思っているもの。研究者との会話や議論を楽しむことがサイエンスカフェの醍醐味です。
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其の二
事前に勉強しておけば
楽しさも倍増!発表されるテーマ自体は難しい研究内容についてのこと。もちろん研究者の方がわかりやすく解説してくれますが、事前に研究内容についてのキーワードを調べておくだけでも、内容の理解度は随分違うはず。活発に質問をするためにもぜひ"予習"を!
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其の三
実践・体験イベントには
積極的に参加しようサイエンスカフェでは発表者の一方的な講義にならないように、参加者がその場で体験したり、参加者同士一緒になって課題に挑戦する、"参加型"イベントが行われることも。実体験は記憶にも残りやすいもの。ぜひ積極的に参加するようにしましょう。
もともとはフランスで広まった哲学カフェ(カフェ・フィロソフィーク)を、イギリスで科学に応用して、サイエンス(科学)カフェとしたことが始まり。90年代後半に生まれ、イギリス国内、そして海外へと急速に広まっていきました。イギリスではワインなどお酒を飲みながら語り合う「サイエンスパブ」などもあり、"大人の社交場"として一般的に親しまれています。
サイエンスカフェは授業でも取り組まれています。社会の問題や課題に対し、対話によって問題を発見し、解決の糸口を探るコミュニケーション能力を養う目的で開講される大学院総合科目「科学技術コミュニケーション論」。後期授業の最終課題が、学生によるサイエンスカフェの企画・運営です。講義・演習、インターンシップなどのカリキュラムを通じ、国内外のコミュニケーションのあり方を学び、サイエンスカフェの企画・運営に挑みます。
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大関伸男
大学院
理工学研究科
化学工学専攻
(取材当時)味覚を科学する
企画を実施「サイエンスパフェ」と題して、参加者に味覚修飾物質(ミラクルフルーツ、ギムネマ)の味覚の変化を体験してもらい、それを科学的に説明するという企画を実施しました。普段、科学に親しみのない人が興味を抱くテーマ設定や、よりわかりやすい説明の仕方などを工夫していくことが楽しかったです。
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鈴木春菜
大学院
理工学研究科
土木工学専攻
(取材当時)"異分野"交流が
刺激にサイエンスカフェの活動を通して、普段は交流のない他専攻の学生と研究の話題などで議論ができ、とても刺激を受けました。他の学生や一般の参加者など、"自分の研究に興味を持ってくれる異分野の他人"と接することは、コミュニケーションスキルの向上にもつながると実感しました。
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王珏(おう・ぎょく)
大学院
イノベーションマネジメント研究科 技術経営専攻(取材当時)"伝える"意義を
再認識!自分はサイエンスカフェで司会を担当したのですが、その経験を通して、科学の成果を一般の方にわかりやすく、かつ面白く伝えることの社会的意義と重要性を再認識することができました。"科学"に少しでも興味のある方は、ぜひいろいろなサイエンスカフェに参加してみてほしいですね。
ナップザック問題は、ある条件下で、最大の利益や価値を計算するのに役立ちます。
ナップザックに入れる宝石を、例えば音楽イベントの収益に置きかえると、アーティストの出演料とアーティストそれぞれが集められる観客、つまり収益とで、総出演料を抑えて最大の収益を求めることができます。また人工衛星で考えることもできます。人工衛星の重量制限の中で、各観測機器の重さと観測結果の価値とを見比べて、最大の観測結果を得るのです。
また、解の求め方には、良さそうなものから順に選んでいく戦略(貪欲法)や全部調べて最も良い答えを探す戦略(総当たり法)などがありますが、それぞれ必ずしも最適な解が求まるとは限らなかったり、時間と労力がかかったりというデメリットがあります。その中にあって動的計算法と呼ばれる、部分問題の解を利用して解く戦略は計算に要する時間と解の最適さという点では、良いアルゴリズムとされています。あなたはどんな方法でこの問題を解いたでしょうか?