ロボットと未来
「ロボット」という言葉が初めて使われたのが1920年。その後1951年には手塚治虫氏が『鉄腕アトム』の連載を開始し、日本においてもロボットという新しいテクノロジーが、身近なものとして感じられるようになりました。
人に代わって働き、人にはできないことまでも実現させてくれるロボット。
世界で認められている東工大の独創的なロボットたちと、ロボットに魅了され、研究を続ける人々を取材しました。
モーターが甲高い音をあげ、ジュラルミンの筐体(きょうたい)が動き出しました。その動作は、予想をはるかに超えて、滑らかなS字を描いて優雅に進んでいきます──発想の豊かさと確かな技術力を感じさせるロボットたち。日本でロボットというと、アニメやSFの影響もあってか、人間に近いヒューマノイドタイプが思い浮かべますが、東工大ロボットはそれだけがロボットの魅力ではないことを教えてくれます。
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- 重さなんと7トン!世界最大級の歩行ロボット
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工事中の斜面の上を移動して崖崩れ防止作業を行います。重量7トン、脚の長さは3.7m。右は走行と歩行運動を両立したロボット。足裏が倒れ、車輪に変化します。/福島研究室
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- "群"の動きをシミュレートする
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単体ではなく、複数のロボットを使って群れの動きをシミュレーションします。22台全てが研究室に所属する学生の手づくり。
/岩附・岡田研究室
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- 乾電池で動く、災害救助ロボ
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災害時、倒壊家屋に入り壁を自力で登って中の様子を撮影します。手のひらサイズの小さな体で行方不明者を捜索します。
/塚越研究室
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- 制御のために生まれたカタチ
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人間の股関節とは異なる仕組みにして、上半身と下半身の動きを分離。制御理論解析のために生まれたロボット。
/岩附・岡田研究室
社会で活躍するロボット
フィールドロボットと呼ばれる、建設現場などで危険な作業を人の代わりに行うロボットがいます。広瀬・福島研究室の法面(のりめん)作業用4足歩行ロボットTITANXI(A左)がそれです。法面とは土砂災害などを防ぐ人工斜面のこと。傾斜している上、出っ張りもある法面での作業は危険が伴います。TITANXIは、出っ張り部分を察知し、脚の置き場を決め、ボルトやアンカーの打ち込みを人に代わって行います。広瀬茂男教授に東工大ロボットの特徴を伺うと"質実剛健"という言葉が返ってきました。「まずは現場を知ること。ニーズを把握し、一番役に立つ形でつくり上げるのが私のモットーです」。
フ阪神・淡路大震災の際、半壊家屋での救助活動が瓦礫の山を前に難航しました。塚越研究室は、二次災害の発生が予想される被災地での救助を目的に、ジャッキアップ移動体Bari-bari-IV(H)を開発。倒壊した建物の下など、人には入れない狭く危険な場所に潜り込み、瓦礫を押し上げながら移動することができます。
そして医療の分野にもロボットの力が求められています。小俣研究室の腹腔内組立式3指9自由度ハンド(G)は、開腹手術における人への負担の軽減をめざしています。腹部に開けた小さな穴から部品を入れ、腹腔内で組み立てて施術します。医療現場との連携をとりつつ、開発が進められています。
新しい何かが未来をつくる
ヘビ型ロボットACMシリーズ(F)はもともと、誰にも解明されていなかったヘビの動きを数値的に解析する研究のなかで、理論を実証する目的でつくられました。まるで本物のヘビのように、にょろにょろと体を左右にくねらせ、やわらかに地面を這う姿には驚かされます。現在は水中で泳ぐタイプも開発されるなど、災害救助などでの活躍も期待されています。またロボット制御の分野では「どう動かすか」も重要。意図した運動を実現するには、制御しやすいロボットが必要です。2本の脚を持つデューク(D)はまさにそれです。人とはあえて異なる股関節構造を持たせ、動かしやすい機構にしています。人間と同様、ロボットにおいて頭脳となる制御と、体である機構は切っても切れない関係です。そして、想定外の結果が、必ずしも失敗であるとは言えないのが"研究"なのです。それが新しい発見や思いがけない展開に広がることもあります。新しい何かを生み出すには、今までとまったく異なる視点や、自由な発想が不可欠。研究機関として、教育の場として、大学は未来をつくる使命を担っています。
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- 握力の強さと軽さを両立
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義手は軽さが求められると同時に、握力も必要となります。このロボットは素早くつかみ、力強く握ることができるのです。
/小俣研究室
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- 世界に認められた水陸両用ロボット
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ヘビのように体をくねらせて前進するロボット。水中ではヒレを用いて、縦横無尽に泳ぎます。先端にはカメラを備えています。
/福島研究室
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- 体内で活躍するロボットハンド
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手術をサポートするロボットハンド。お腹に小さな穴を空け、そこから棒状に分解したパーツを差し込み、腹腔内で組み立てることができます。/小俣研究室
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- 倒壊した建物から人命を救う
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建物の下敷きになった被災者を探索・救助するロボット。狭い隙間から侵入し、瓦礫を押し上げながら自らも移動します。
/塚越研究室
ロボットに"はまった"学生たち
機械物理工学を専攻するある学生が語る夢は「世の中の多くのロボットを簡単に制御できるようにすること」。もともとロボットに興味があった訳ではありませんが、岡田昌史准教授の授業を受け、制御に面白さを感じ研究室の門戸を叩きます。この研究室では制御技術の視点からロボット研究を行っており、制作した群ロボット(B)は避難誘導や混雑緩和のプロジェクトに応用されています。群ロボットは合計22台あり、1台の牽引するロボットを先導役として、その動きに反応して他のロボットが後を追うように制御することができます。人間の動きを群ロボットに置き換えることで、群衆の挙動の制御を可能にする研究です。
世界に類を見ないこの研究の一翼を担うのは同研究室の別の学生。群ロボットの設計図を起こすところから携わっています。「研究室というスペースが限られている場所で、22台を動かしてデータを取るため、なるべく小さくなるように設計しました。また、自由自在に動けるようにオムニホイール(ホイールを複合させ、前後左右に動くロボットの足)を採用しています」。彼は小学生の頃にロボットコンテスト(ロボコン)をTVで見てその動きに興味を持ったといいます。そして大学生となった今、実際にロボットをつくっているのです。
ロボットに求められるもの
ロボットを制作しているのは、何も研究室の中だけではありません。東工大の「ロボット技術研究会(ロ技研)」の発足は1981年。現在約100名もの部員が所属しています。
ロボットの面白さは、自分でつくったものを動かせるというところにつきます。ロ技研では、基本的に一人でつくりたいロボットを制作できます。最初はロボットを見てスケッチや採寸を行います。さらに機構を見ていくと、徐々に原理が見えてきます。そうすると大学での授業に加え、身の周りのすべてから学べる・使えるモノがあることに気付くのです。
身近にあるものが参考になるというのは、逆にそれだけ様々な技術や仕組みをロボットが備えているからだといえます。そういったことからもロボット研究は"総合学問"といわれるのです。機械系専攻者だけがロボット研究をしているわけではありません。東工大には様々な学科や分野でロボットに向き合っている先生や学生がたくさんいます。東工大生のつくったロボットが、あなたのすぐそばで活躍している。そんな日が近い将来くるかもしれません。
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ものつくりのセンスを磨く
実際に自分の手を動かしてモノをつくったり、モノを壊して構造を知るなど、積極的にものつくりを楽しみましょう。その経験がセンスを育んでいきます。ものつくりのセンスは大きな武器なのです。
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世の中のフシギを発見する
生き物がなぜその形になったのか。低気圧の回転方向は?世の中の現象に「なぜ?」と思える視点が大事。そこにロボット研究のヒントもたくさん詰まっています!
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ものつくりのセンスを磨く
ロボットは数学と物理で動いています!この2科目はロボットの基礎。やっておいて損はありません。研究の成功に必要なひらめきは、知識の礎があってこそ生まれるものなのです。
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IDCロボットコンテスト
大学国際交流大会世界7カ国から大学生が集まって各国混成チームを結成するため、コミュニケーション力も重要。東工大では「創造設計第一」の授業で行う競技会で出場者を決定。競技会には他学科生も参加可能。
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新入生ものつくり体験
@ものつくりセンター4月から行われる1年生向けの体験学習。ものつくり教育研究支援センターで行われ、希望者は誰でも参加できます。ロボットキットを使い、プログラミングなどを実施します。制作期間は約2カ月。
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ロボット技術研究会
ロボコン等の大会に出るためだけでなく、それぞれが自由にロボットを制作。部室にはフライス盤や電動糸ノコギリがあり、制作にはもってこいの環境。
(2009年取材)