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東工大オンライン授業レビュー
新型コロナウイルス感染症の影響により、東工大では2020年の第1クォーターからWeb会議サービス「Zoom」を使ったオンライン授業を取り入れました。新しい生活様式に合わせた学びについて、学生、教員、オンライン授業対応チームの方々に、まさにオンラインにてインタビュー。新しい受講スタイルに対する印象や課題、工夫した点、コミュニケーションや学習意欲の変化など、それぞれの立場から感じたことを聞きました。
※学生企画は、学生広報サポーターによる自主企画ページです。
※インタビュー内容は2020年9月時点のものです。
学生 印象や苦労したことは？ メリット・デメリットは？ コミュニケーションはどう変化した？
成玲娜さん
工学院 学士課程1年
自分から積極的に動いて、オンラインで学ぶ環境を整えました。
入学当初に知り合った新入生同士でオンライン女子会をしたり、必修科目ではZoomのブレイクアウトルームで周りを気にせず議論できたりと、この環境にはすぐ溶け込めました。授業時間以外にもオンラインのルームを設定してメンバーを集め、得意科目を教えてもらいながら勉強することも。仲間と協力して課題に取り組む環境を整えていましたね。
メリットとしては録画や資料で復習ができること。通信環境が悪く講義を受けられなかった学生にも録画や資料が配られ、学ぶ環境を整えてくれていた印象です。多文化共生論という授業では3つに分けたルームを自由に行き来して議論でき、学びが深まりました。
ただ、実験など本来は自分で体験して学べたものが受けられないのは残念です。学生同士の交流はオンラインだから仲良くなれた人もいました。先生とは授業以外でコミュニケーションを取れず、オンライン授業はより質問しやすい少人数がいいと感じています。状況が落ち着いたら、実習やオーケストラサークルの演奏など今までできなかった活動や大学散策をしたいです。
松木優太さん
理学院 物理学系 学士課程2年
授業は丁寧で質問しやすいが、集中力や人間関係のつながりに不安も。
オンラインツールはほとんど使ったことがなかったのですが、先生のフォローや資料が丁寧で授業は受けやすかったです。学年が上がり勉強の質も量も増えて課題が大変でした。レポート作成と同時並行で、そのレポートを書くTexというプログラミングソフトの使い方の勉強もしていました。
通学していたら友達と相談できていたし、難しい問題も対面授業ならTA（ティーチング・アシスタント）に聞けたのにと思います。でもチャット機能で先生の説明を遮らず質問でき、教室移動がなく空いた時間に質問しやすくなったと感じます。ただWi-Fiがつながりにくく、授業が止まって集中力が途切れてしまうこともありましたね。まだ同じ系の人と会えておらず、卓球部の活動もできていないのは少し残念です。
教員との意思疎通は今までとあまり変わりませんでしたが、プライバシーの関係でビデオオフの学生が多く、教員側にとって顔が見えない学生の反応を見極めることは難しかったのかなと感じました。授業を受ける側も教える側も満足いく体制になってほしいと思っています。
教員 授業やテストで工夫した点は？ 学生への影響は？ オンライン授業を続けたい？
弓山達也教授
リベラルアーツ研究教育院 社会・人間科学系
オンラインによる反転授業※実現し、想像していなかった学習効果を感じました。
必修科目の東工大立志プロジェクトの議論にZoomのブレイクアウトルームを活用し、手応えを得て積極的に用いることになりました。学内のOCW（講義資料公開）やGoogleフォームで出席・課題提出・アンケートなどが連携して管理でき、上手く機能したことは教員にとっても発見でしたね。
私は授業前に課題を出すのですが、学生がビデオで予習しオンラインで議論を深めるサイクルが確立され、図らずも反転授業※が実現しました。レベルの高い質問が増えたことに驚き、レポートや書評も質が高く対面授業以上の学習効果があったのではと思います。一方、整合性と一貫性に厳しい東工大生を相手に質問の回答を準備するのは一苦労で、情報を文章で正確に伝える度合いが高まったことも大変でした。
オンライン授業は効率がいい反面、教養科目で本当に考えてほしい知識や情報の背後にある価値観や人生の意味については伝達に限界があります。教員の無駄話を数年後に思い出して、真意に気づくことも重要なんです。それができるライブの対面授業も大切にしたいですね。
※自宅でビデオ授業を視聴し予習して、教室では個別指導や発展問題を扱う教育方法として注目される。
カールマン・タマシュ准教授
理学院 数学系
面談形式の口頭試験によって、より学生の理解度を測ることができました
私の担当授業の位相空間論第一・第二ではZoomによる口頭試験を行いました。定理に関する質問をランダムに2つ問いかけて答えてもらうのです。口頭試験の準備には深い理解が必要になります。理論に間違いがあるか、自信がある点とない点はどこか、学生と個別に話すとそれらがよくわかり、対話しながら理解度を測ることができました。
日本では珍しいですが私の母国のハンガリーでは一般的で、私も大学時代に経験し理解を深めたことを今でも覚えています。オンライン授業で感じたのは黒板よりタブレットの方が使いやすいこと。図や資料などをすぐに学生に見せることができました。ただ、質問などは対面のときと同じくらい少なく、授業が録画・公開される関係で学生はビデオオフだったため顔を見て授業できなかったのは辛かったです。
学生と教員が同じ物理的空間を共有することはコミュニティ形成においてとても重要。ですからコロナ収束後は対面教育に戻りたいですが、一方でオンライン化が進む世界の変化を受け入れていかなければいけないとも感じています。
オンライン授業対応チーム導入の背景は？教員の反応は？現状と今後については？
大浦弘樹准教授
教育革新センター（CITL）
仲谷佳恵特任講師
教育革新センター（CITL）
大石哲也特任准教授
戦略的経営オフィス 情報活用IR室
東工大の学びを守るため、あらゆる先生方に尽力いただきました。
大浦オンライン授業に対応するため、まず我々3名のほか各学院・系・コース等からZoom担当教員を1名ずつ選出いただきました。担当教員の先生方に各所の質問に対応してもらいながら、CITLのサイトに仲谷先生が作成したマニュアルなども掲載し問い合わせの数をコントロールする施策をとりました。
仲谷Zoomのテクニカルな部分を大石先生と私で検証しながら随時マニュアルを更新していました。それが担当教員体制ができた3月頃で、担当教員向けの説明会も数回行いました。
大石最初は手探りで仲谷先生と私で設定を調整していました。Zoom導入前はアカウント登録やアクティベート作業など使い方の質問が先生方から多く寄せられましたが、現在は落ち着いていて質問も減り、事務スタッフで対応できています。
大浦出席や成績評価についての質問も多かったです。我々3人がすべて答えるのではなく、授業の現場から出る意見には現場の先生に知恵をお借りしました。担当教員の先生方と情報共有できる体制があったからこそ対応できたと思います。オンラインのリアルタイムな授業は対面に近い形で実施でき、授業資料を刷新するコストも抑えられます。一方オンデマンドはアップした動画を学生が繰り返し視聴できます。実験をライブ中継したり数多くの実験動画をアップしたりと、各先生が想像以上に工夫と努力をされていました。
仲谷使いたい機能も各先生で異なり、意見が割れた場合は安全性を重視してデフォルトの設定はオフにし、使いたい方はオンにしてもらっています。便利な機能などの情報交換もされるようになった今があるのは、教育現場崩壊の危機感を抱き、担当教員の先生方が尽力されたからこそですね。
大浦我々は急場をしのぐ一時的なチームで、徐々にCITLの手を離れていきます。コロナ禍が教育機関に与えた影響は計り知れません。これを機に学んだことを生かして次の教育のあり方に踏み込めるか、社会の変容に柔軟に対応していけるかが今後求められると思います。
教育革新センター（CITL）は、教育方法、教育学習環境の開発等を通じて、教育の質向上を目指しています。
今後のオンライン授業に関するアンケート
第3クォーター以降の講義型の授業形態について、
最も当てはまるものを1つ選んでください。
- 全てオンライン講義にして欲しい
- 一部を教室講義で、大半をオンライン講義にして欲しい
- 教室講義とオンライン講義を半々ぐらいにして欲しい
- 大半を教室講義で、一部をオンライン講義にして欲しい
- 全てを教室講義にして欲しい
B＝学士課程、M＝修士課程、D＝博士後期課程
2020年8月教育・国際連携本部実施
2020年の第3クォーター以降の講義型の授業形態について、東工大生にアンケートを実施。学年ごとにさまざまな反応が寄せられました。
まだ実際に対面授業を受けたことがない学士課程1年の学生は教室講義を希望している割合が高く、対して修士課程や博士後期課程の学生はオンライン講義を希望する回答が多い傾向。
今回のインタビューでもお話が出たように、対面授業にもオンライン授業にも双方の良さがあり、新しい生活様式に合わせた学びのスタイルはこれからも進化していきそうです。
本インタビューは東京工業大学のリアルを伝える情報誌「Tech Tech ～テクテク～ 38号（2020年12月）」に掲載されています。広報誌ページから過去に発行されたTech Techをご覧いただけます。
（2020年取材）
