スパコン「TSUBAME」

東工大を、世界をリードする スパコンセンターに

About スーパーコンピューターTSUBAMEとは

「TSUBAME」とは東工大に設置された大規模クラスター型スーパーコンピューターの名称です。

2006年の登場以来、バージョンアップを重ねながら世界のトップクラスを走り続ける超高性能マシンで、TSUBAMEの名称は、「Tokyo-tech Supercomputer and UBiquitously Accessible Mass-storage Environment」の略であり、東工大のシンボルであるツバメを掛けています。

Concept コンセプトは「みんなのスパコン」

学術国際情報センター 松岡聡教授
学術国際情報センター 松岡聡教授

「『東工大を、世界をリードするスパコンセンターにしよう』これが合言葉でした」と語るのは、TSUBAMEの生みの親である松岡聡教授。各大学がスパコンを採用し始めた1980年代、東工大でも既存の製品を導入し、学内のネットワークなどで活用していました。しかし予算的にも人員的にも、その規模は小さく、将来的な展望も決して明確とはいえませんでした。
そこで松岡教授らは、他を追随するのではなく、すでに持っていた先進的な技術をもとに、一気に"世界トップクラス"を目標に掲げました。ほかにないオリジナルの追求にこだわったのでした。「組織的な準備なども行い、TSUBAMEの設計を本格的にスタートさせたのは2004年頃。そこで『圧倒的な計算能力』と共に重視したのが、『みんなのスパコン』というコンセプトです。
従来のスパコンは少数のエリートが運用するものでした。私たちはそれを変えたいと思いました。スパコンを使える人材を数多く養成し、活用領域の裾野も広げたかったのです」そこには、サイエンスにおける“シミュレーション”の重要度の高まりという背景があります。長く科学の世界では、"理論"と"実験"が大きな役割を担ってきました。ところが近年は、例えば実験が不可能な事象でも、それをコンピュータ上で再現し、理論を確認することができるようになってきています。
「理論を裏付けることに加えて、ときには理論の発見にもシミュレーションが力を発揮することがあります。これらはまさにスパコンがあるからこそ可能な新しい科学と言っていいでしょう。しかしながら、新しい分野だけにまだまだ研究者の層が薄いのも実情。だからこそ、『みんなのスパコン』というオープンな発想が大事なのです」
実際、現在のTSUBAMEには、東工大の教員や学生であれば、研究室などのパソコンからアクセス可能。初心者でも使いやすいようにWindowsからでも利用できるインターフェースが提供されています。「今の時代は、自動車メーカーも試作車をつくる前にシミュレーションをする時代。海外では紙おむつ開発にもスパコンが使われているくらい、実は身近に活用できるのです」と松岡教授。そのほかにも、医療や防災、都市環境、金融のリスク予測など、スパコンの守備範囲は無限に広がっています。
「すでに次世代のTSUBAME3.0も開発中。よりいっそう使う人間との距離を縮めて、スパコンの新たな世界を切り開いていく—。これがTSUBAMEというブランドの使命だと思っています」

Feature1 驚くべきTSUBAMEの性能

世界4位の処理スピード

2010年にリリースされたTSUBAME2.0は、同年11月の性能ランキング(Top500)初登場時、世界第4位、国内では第1位を獲得しました。予算規模からすると、これは驚異的ともいえるもので、世界のGPUを使ったスパコンを牽引しています。

GPUによる高速化と低コスト化

GPUとは高速な画像処理などを行うグラフィックス用の半導体チップです。これを世界に先駆けて汎用のスパコン用のCPUとして活用したのがTSUBAMEです。圧倒的な高速化、低コスト化を実現し、現在スパコン界では、このタイプのマシンが重要な位置を占めるようになっています。

多彩に活躍する高い汎用性

スパコンの活用範囲は科学技術の分野に留まらず、ビジネスの世界にも広がっています。そうしたなか、TSUBAMEはできるだけ多様な計算に対応できるようつくられているため汎用性が高く、企業の利用も多いのが特徴です。

省電力性能で世界2位

スパコンの世界では電力消費量が大きな課題だが、TSUBAME2.0は、省電力ランキングGreen500で世界2位、運用スパコンとしては世界1位の認定を受けました(2011年7月現在)。「高速」「低コスト」に加え「エコロジー」を実現する現代型スパコンです。

「TSUBAME」には東工大のシンボル「ツバメ」が掲げられている

「TSUBAME」には東工大のシンボル「ツバメ」が掲げられている

Feature2 TSUBAMEの特色を活かして「誰も成功していない研究」を

より正確な気象予報を可能に

目を見張る解像度で再現された台風の雲の様子
目を見張る解像度で再現された台風の雲の様子

壁一面のモニターに映し出される日本列島。その上を巨大な渦巻き状の雲がまるで生き物のように這っています。「これは台風の雲の動きです。かつて、ここまで詳細に雲の動きが計算により示されたことはありません。超高性能なスパコンを使わなければできないことです」と画面を見ながら言うのは青木尊之教授。
青木研究室では新しい数値計算手法を用いて、流体現象を中心に様々な物理現象の解明を進めています。最近では気象庁と共同研究を実施。次期気象予報として開発しているモデルのプログラムや並列アルゴリズムなどを改良し、TSUBAMEで大規模計算ができるようにしました。
「少し前まで、気象庁では気象予報を5 kmの格子を使って行っていました。しかし私たちは500 mの格子を採用し、より詳細に雲の動きを把握することに成功したのです」

気流を1 mの解像度で再現

都心部の気流を1 m格子の解像度でシミュレーション。建物のデータも実際のものを使っている
都心部の気流を1 m格子の解像度でシミュレーション。建物のデータも実際のものを使っている

さらに青木研究室はTSUBAMEを1日完全に占有できる「グランドチャレンジ大規模計算制度」を使い、都心部の10万km四方という広い範囲の気流を、なんと1 mの解像度で細密にシミュレーションすることにも成功。例えば高層ビルが立ち並ぶ東京で火災が起きたとき、その煙がどのように蔓延していくかが予想できるようになります。
その上、この技術によって高層ビル背後のビル風や幹線道路に沿って流れる風の道なども再現。データさえそろえば、都心部の自動車の排気ガスの流れもわかるし、万一の事故やテロによる有毒ガスの拡散状況まで予測できるというわけです。こうした取り組みには、まさにTSUBAMEクラスのスパコンが不可欠です。なぜなら今回の研究で扱っ格子の数は500億以上。そこで刻々と変化する気流を解析するには、想像を絶する計算能力が必要なのです。

実験では得られない発見を

学術国際情報センター 副センター長 青木 尊之 教授
学術国際情報センター 副センター長
青木尊之教授

青木教授の研究の特徴の一つに「ビジュアリゼーション」があります。スパコンを使って導かれた数値を美しい動画にして見せてくれます。

「ビジュアリゼーションは、あくまで研究の本質をわかりやすく表現するための手段です。とはいえ、『これは価値のある研究だ』と多くの人に共感してもらえれば、その分野はどんどん進歩していきます。

それには、やはりわかりやすく可視化をすることが効果的です」一昨年、青木教授らは融けた合金が凝固して結晶化していくプロセスをコンピュータ上で再現する研究に取り組み、スパコン界で最も権威のある「ゴードンベル賞」を受賞しています。これは、応用計算において、その1年間で最も有効にスパコンを利用した取り組みに与えられます。

「高性能なスパコンをいかに科学や人類の成長につなげていくかが問われている今、応用分野で計算を革新的に発展させることが求められています。これからもTSUBAMEを身近に使えるという東工大ならではの環境を活かして、青木研究室の理念である『誰もやっていない研究』『誰も成功していない研究』を追い求めていきます。そしてそのなかで、実験では得られない画期的な発見をしていきたいですね」

Feature3 スパコンによるデータ解析がライフサイエンスを革新する

情報処理速度が革新を生み出す

バイオインフォマティクス(生命情報科学)

「バイオインフォマティクス(生命情報科学)」まだ聞きなれない言葉かもしれませんが、生物学や医学等における膨大な情報をコンピュータで解析し、規則性を発見したり、予測を行う学問として、現在注目を集めています。

TSUBAMEを利用して、東工大でこの分野の発展を後押しする研究を手掛けているのが秋山泰教授です。「生物の遺伝的情報はDNA配列で決定されますが、そのDNA配列の読み取り装置であるシーケンサーの技術革新は日進月歩です。かつて何年、何十年という時間を要した作業が、今はわずか数時間で終わってしまいます。こうした環境の変化によって、現在、生命科学そのものも大きな転換を始めているのです」

「メタゲノム解析」という手法

タンパク質間の相互作用は生命活動を支える重要な要素であることから、互いがドッキングするペアの特定は生命科学の研究対象。秋山研究室では、それを高速に予測する計算方法の研究も行っています。
タンパク質間の相互作用は生命活動を支える重要な要素であることから、互いがドッキングするペアの特定は生命科学の研究対象。秋山研究室では、それを高速に予測する計算方法の研究も行っています。

その転換の具体例に「メタゲノム解析」という手法の進展があります。これは、単一生物のDNAを抽出して解析するのではなく、ヒトであれば、ヒトと共生する微生物まで含めたDNAを丸ごと解析してしまおうというものです。

「一般に生物というのは、細菌などの微生物と様々な関係を持ちながら生きています。事実、人間もある種のビタミンは、体内の微生物なくしてはつくれません。だとすれば、特定の生物単体のDNAに焦点をあてるのではなく、すべてをひっくるめて調べた方が見えてくることがあるはずです。これがメタゲノム解析の考え方なのです」すでにこの方法を使った研究では、糖尿病患者と健常者では体内微生物バランスに差があることなどもわかっています。こういった研究を疾患ごとに進めていけば、各人の体内の細菌の分布という視点から健康管理をすることも可能になるというわけです。

予測ツールとしてのスパコン

情報理工学研究科 計算工学専攻 秋山泰教授
情報理工学研究科 計算工学専攻
秋山泰教授

「実はかねてからそういった概念はあったのですが、情報解析にかかる時間がネックとなっていました。それが、数学的、物理学的な頭脳を持つ人が研究に加わることで、課題は急速に解決され始めています。現に私の研究室の学生がつくり上げたある計算プログラムにより、データ処理のスピードは従来の200倍以上になりました」

秋山教授は、それもひとえに学生らがTSUBAMEにアクセスできたからこそだと言います。この「次世代シーケンサーからの処理方式の研究」も、日本国内の「GPUチャレンジ2010」というコンテストで自由課題部門1位を獲得しています。

「今、ライフサイエンス分野でもスパコンの需要は着々と拡大中です。それによって、これまで地道な実験でしか得られなかった結果を数値計算で見通せるようになりました。実は生命や医療にかかわる領域では、“予測”のツールとしてスパコンが大きな価値を持っています。なぜなら、これまで扱いきれなかったDNAデータなどを解析し、そこにある程度の機能性や関係性を見出せれば、あらかじめかなり的を絞って治療法や創薬の研究を進められるからです。ヒトの全身は60兆個もの細胞が連関しており、これは、その複雑な対象を研究するための非常に重要な糸口といえるでしょう」これまで研究者が積み上げてきた技術やノウハウに、スパコンが大量データ解析の能力を提供することで、生命科学の分野には大きな変化が起きています。従来にはなかったアプローチの研究がいったいどんな成果をもたらすのか、これからが楽しみです。

Feature4 TSUBAME2.5へ

そして、2013年秋、TSUBAMEが進化します

TSUBAME2.5は、倍精度の理論演算性能値は5.7ペタフロップス(1秒間に5700兆回の浮動小数演算が可能)とTSUBAME2.0に比べ約2.4倍となり、世界最高レベルとなるだけでなく、単精度の理論演算性能値では3.5倍程度の約17ペタフロップスへ向上し、指標では日本最速レベルのスパコンとなるとともに、使用電力を削減し、世界でトップクラスの省電力スパコンとなります。

TSUBAME2.5

スパコンTSUBAME最新情報

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東京工業大学 総務部 広報課

Email : pr@jim.titech.ac.jp