都市地震工学 最前線

都市地震工学最前線を追え!

2011年、東日本大震災という未曾有の災害に見舞われた日本。建物の倒壊、津波、液状化など、地震がもたらす様々な脅威から街を守る技術は?東工大で行われている都市地震工学研究の最前線に迫りました。

  • A 建造物の耐震対策(建築工学・土木工学)

    建造物には、中にいる人々に危険が及ばないよう、地震発生時に倒壊しないことはもちろん、地震発生後も避難場所として使用し続けるための、継続的な耐震力が求められています。

  • B 液状化対策(地盤工学)

    人工の埋め立て地に起こりやすい液状化は、地上の建造物の倒壊や、地中のライフラインの破壊を引き起こします。都市部でも郊外でも、広域にわたって起こる可能性があるとされています。

  • C 地震火災対策(防災工学)

    市街地が密集する大都市において、地震発生時には大規模な火災が起こる可能性があります。延焼シミュレーション、避難場所の確保、火災防御システムの研究が急がれています。

  • D 帰宅困難・群集事故対策(人間環境学)

    都市部では、交通機関がストップすれば大量の帰宅困難者が発生します。長時間にわたる徒歩帰宅中の安全確保や、人の密集による二次災害(群集事故)の防止対策が必要になります。

  • E 長周期地震動対策(建築工学・人間環境学)

    超高層ビルでは、通常の震動よりも揺れが長くて大きい「長周期地震動」が発生します。高層階にいる人々の心的ストレスや家具の転倒など、耐震設計の新たな課題が浮上してします。

  • F 橋・道路・鉄道の耐震対策(建築工学・土木工学)

    都市のライフラインである交通網。地震発生時、鉄道や高速道路の不通により避難経路がなくなれば、大規模な二次被害が生まれる恐れもあります。より確実な耐震対策が求められています。

  • G 津波対策(海岸工学)

    発生そのものはどうしても避けることのできない津波。しかし、そのメカニズムの解析により、警報システム、避難経路確保、防波対策など、様々な視点から防災研究が進んでいます。

多角的アプローチで震災から「街を守れ」!

日本の都市が抱える震災メガリスク

2011年に発生した東日本大震災では、津波、液状化、交通インフラ機関の破壊などにより、国内の広い地域で深刻な被害が生じました。また、原子力発電の事故による放射能汚染、被災地域の人口・雇用の減少、世界規模での経済損失など、現在も様々な場面でその影響が深刻化し続けています。

「地震大国」といわれるほど世界的にも地震の多い国、日本。近い将来、発生が予測されている東海地震や首都直下地震など、都市を直撃する大型地震が起これば、都市機能が崩壊し、膨大な数の人々の生活が危機に陥ることになります。また、産業・情報機能の低下により、日本全体の国力低下、さらには世界経済にも大きな影響を与えることになりかねません。日本の都市は、巨大地震による複雑で広範囲にわたるリスク(震災メガリスク)を常に抱えているのです。

個々の被害だけでなく都市全体を俯瞰する研究

このような大都市の震災リスクを見据え、東工大では、都市全体の耐震化を進めるための研究が行われています。「東工大都市地震工学センター」(以下CUEE)は、都市の震災メガリスクを研究する「都市地震工学」の国内唯一の拠点です。この研究プログラムでは、建築工学、土木工学、地盤工学、人間環境学など、様々な分野の研究者が集まり、多角的な視点から都市の耐震研究に取り組んでいます。拠点リーダーの時松教授は、安心・安全な街づくりは、分野別に独立した研究だけでは成り立たないと語ります。「大都市には、建物の耐震改修はもちろん、液状化対策、帰宅困難者対策など、一言で『震災対策』と言っても実に多様な課題があります。そのため、それぞれの分野の研究者が横のつながりをもち、多角的・総合的なアプローチで都市全体を俯瞰する研究が必要なのです」。

また、震災メガリスクを抱えているのは日本だけではありません。CUEEは海外の研究機関と協力し、国際会議や学生・若手研究者のワークショップ、研究者交流などに積極的に取り組み、研究成果を世界に向けて発信しています。国境を越えた連携のもと、世界規模での「都市の耐震研究」を担っているのです。

東工大が発信する「壊れない街づくり」の研究

分野が多岐に渡るCUEEの研究から、今回は「制震・免震技術」「帰宅困難対策」「液状化対策」の
最前線を覗いてみました。

「耐える」だけでなく「壊れない」技術

1995年の阪神・淡路大震災では、家屋や家具類の倒壊による圧死や窒息死が犠牲者の多くを占めました。
以降、建造物は、中の人命を守るため「震動に耐えられること」が耐震基準となりました。しかし、今の建築基準法をクリアする耐震設計とは、「人命を守れる程度に倒壊しない設計」であり、言いかえれば「使用不可な程度に壊れかねない設計」。たとえ倒壊を免れても、その後使用できなくなる可能性が高いのです。

人口が密集し避難先が不足する都市部において、建造物は地震発生後も避難先として「使用し続けられる」必要があります。「免震・制震技術」は、このようなニーズにこたえる研究といえます。地面と建物を切り離し、その間に入れた免震装置によって地震動を吸収したり、壁や柱に取り付けた制震装置で揺れを制御し、建物のダメージを最小限に抑える。倒壊しないだけでなく、その後も使用し続けられる建造物の設計が可能です。

このような制震・免震技術は、東工大の教授・学生たちにより、東工大の中の数多くの建造物で既に実装されています。研究の成果を最も身近な場所で実現できるのも、東工大の研究環境ならではと言えるでしょう。

制震設計に基づいて建設中の環境エネルギーイノベーション棟

制震改修が施された緑が丘1号館校舎

制震設計に基づいて建設中の環境エネルギーイノベーション棟
※1(左)と、制震改修が施された緑が丘1号館校舎※2(右)。その他、複数の校舎に研究成果が活かされています。

※1デザインアーキテクト:塚本由晴研究室+竹内徹研究室+伊原学研究室/設計・監理:東工大施設運営部+日本設計/施工:戸田建設

※2デザインアーキテクト:安田幸一研究室+竹内徹研究室/設計・監理:東工大施設運営部+アールアイエー+ピーエーシー/施工:清水建設

「誰が」「いつ」「どこで」を調査データで再現

東日本大震災が起こった日、東京都内の交通機関の多くがその機能を失い、「帰宅困難者」と呼ばれる大量の徒歩帰宅者を生み出したことは記憶に新しいと思います。地震発生時、主要道路の混雑は、緊急車両の通行の妨げや、将棋倒しなどの群集事故、市街地火災との遭遇など、様々な二次被害につながる危険性があります。そのため3月11日以降は「むやみに帰らない方がいい」という方針も耳にするようになりました。

しかし、最新の帰宅困難者研究では、そのような一元的な対策ではリスク回避にはならないと指摘されています。東工大では、首都圏90万人弱のアンケートデータをもとに、都市の人々の時間帯毎の分布状況をコンピュータで再現。そこに、地震発生後の時間帯・状況別の帰宅意思(その日のうちに徒歩で「帰宅」しようとするか)の調査データを組み合わせ、帰宅者の動きをシミュレーションする研究を進めています。

シミュレーションの結果、帰宅困難者と一口に言っても、地震発生はいつか、そのときどこにいるか、どのような状況なのかによって分布が変動し、帰宅困難者の発生状況も大きく変わることがわかってきました。例えば、帰宅ラッシュ時に地震が起きた場合、大量の「移動中の帰宅困難者」が発生し、安全な場所にとどまることさえも難しいため、より深刻な被害が予想されるのです。

地震はいつ来るかわからない。だからこそ、一つの事例に基づいた教訓だけでは危険を招く恐れがあります。 東工大では、今後様々な状況に応じて必要となる対策について研究を進めています。

帰宅行動シミュレーションの流れ

体力的な帰宅断念は性別・年齢に依存

帰宅意思別に帰宅行動を場合分けし、帰宅者の分布をシュミレーションしたもの(左図)。
結果の一つとして、帰宅断念者の分布図が得られます(右図)。

画一的ではない地盤改良模型でシミュレーション

東日本大震災では、東京湾沿岸を中心とした広い範囲で「液状化現象」と呼ばれる被害が発生しました。
これは、震動によって地中の水の圧力が増大し、地面がどろどろの液体状になってしまう現象です。海や川を埋め立てた地盤で起きやすく、住宅地や堤防、道路など、様々な場所で被害が出ています。地上の建造物に倒壊の危険が及ぶだけでなく、上下水道やガスなど地中ライフラインの破壊につながり、その影響は深刻です。

液状化現象から街を守るために、「液状化自体を防ぐ地盤改良」と、「液状化しても地面の動きを小さく抑える地盤改良」の2つの方法が研究されています。前者として有効なのが、地盤にドレーン(穴の開いたパイプなど)を入れて、地中の水の圧力を地面がどろどろになる前に低下させてしまう方法。東工大では、縮小模型で再現した地盤に排水ドレーンを入れ込み、震動を加えて液状化をシミュレーションし、その効果を実験で検証しています。また、液状化しても地面の動きが大きくならないよう、地盤の一部をセメントで固め、液状化した層が横に広がるのを防ぐ研究も進められています。都市部でも広い範囲で液状化の可能性が懸念されていますが、その土地の地盤や地上の建造物の状況に応じて、その都度最適な改良を検証していくことが必要です。

東工大で研究されている、こうした「壊れない街づくり」の技術は、これからの都市の防災に必ず活かされていくことでしょう。

造成宅地の数値シミュレーション

液状化の広がりを抑える実験

液状化による地盤の動きを数値シュミレーション(左)や実験(右)で再現。左は造成宅地の数値シュミレーション。
右は堤防の両サイドの地盤をセメントで固め、液状化の広がりを抑える実験(土木研究所で実地)。

地盤強度を実施調査

東日本大震災で倒壊した校舎に設置したセンサー

埼玉県の小学校で実地調査を行っているのは、東工大・時松研究室の学生たち。東日本大震災で倒壊した校舎の地盤強度を調べるため、校舎の中心から五角形になるよう複数のセンサーを設置し、余震動(本震動の後の震動)や微動(常時発生している小さな震動)の大きさ、伝わり方を計測します。

余震動や微動の大きさ、伝わり方の計測

自分の足でどこでも調査!

  • 富安祐貴

    建造物の設計だけでなく、地盤も含めた全体の構造に興味があって、地盤工学の研究室を志望しました。時松研究室では自分の足でどんどん調査に行けるので、研究しがいがありますね。

    富安祐貴

    工学部 建築学科 4年(取材当時)

  • 富安祐貴

    建造物の仕組みが知りたくて建築学を専攻したんですが、地上の建築よりも、謎の多い地中の構造にあえて挑もうと思い、地盤研究をしています。海外にも実地調査に行きました!

    竹田勇貴

    理工学研究科 建築学専攻 修士1年
    (取材当時)

  • 富安祐貴

    地盤工学を学んで、将来は防災に強い建築に携わりたいと思っています。膨大な調査データの分析はミスが許されないので、緊張感をもってやっています!

    坪井友宏

    工学部 建築学科 4年(取材当時)

橋梁の載荷実験

地震時の損傷メカニズムや、新材料を用いた橋脚の耐震性能などの検証

東工大・緑が丘地区にある実験棟の一区画。巨大装置を囲みヘルメット姿で実験を行っているのは、土木工学を志す川島研究室の学生たちです。橋などの構造物の耐震性を高めるため、地震時の損傷メカニズムや、新材料を用いた橋脚の耐震性能などを検証しています。大地震の震動を再現し正確なデータをとるため、大学の中でもかなり大規模な実験施設になっています。

東工大・緑が丘地区にある実験棟の一区画

規模の大きさが研究の醍醐味

  • 大矢智之

    社会を基盤から支える仕事がしたくて土木工学を専攻しました。これだけ規模の大きな実験を学生のうちからできるのは、東工大の研究室や実験設備など、充実した環境あってこそですね。

    大矢智之

    理工学研究科 土木工学専攻 修士1年
    (取材当時)

  • 富安祐貴

    土木は安心・安全な社会づくりに欠かせない、「縁の下の力持ち」です。規模が大きい分大変さもありますが、だからこその面白さも。将来は設計と現場の両方に携わりたいと思っています。

    中村香央里

    理工学研究科 土木工学専攻 修士1年
    (取材当時)

(2011年取材)