環境、人口増加を見据えた太陽電池をつくる

大学院理工学研究科電子物理工学専攻 小長井誠 教授

大学院理工学研究科電子物理工学専攻

小長井誠 教授

  • 試料準備チャンバー

    太陽電池を作製する装置(薄膜タンデム太陽電池作製用システム)の入口。ここに5cm角のガラス板を入れると、ロボットアームによって製膜チャンバーに移される。製膜チャンバーは4つあり、異なる条件でガラス板上に半導体物質の薄膜を堆積させることができる。

  • ガス配管

    天井を覆いつくす細い配管から、チャンバーへ様々な種類のガスが送られる。チャンバー内部は真空になっており、高周波プラズマにより、ガスを分解させることでガラス板上に半導体物質の薄膜を形成させる。

未来のエネルギーをつくる「太陽電池博士」

最近テレビや新聞などで、住宅用太陽電池の話題が取り上げられることが多くなりました。太陽電池を設置する際に補助金が出たり、電力会社に余った電気を売るときの価格が倍になったりと、地球環境対策の面から太陽光発電ブームが起きています。太陽電池は、環境面だけでなく、枯渇が予想される石油などの化石燃料に代わって、21世紀を支える未来のエネルギーなのです。

東京工業大学には、太陽電池研究の第一人者であり、「太陽電池博士」ともいうべき研究者がいます。それが大学院理工学研究科の小長井誠教授です。教授が太陽電池の研究を始めたのは、1972年のこと。オイルショックの真っただ中で、石油に代わるエネルギーが求められていた時代でした。当時、半導体集積回路の研究をしていた小長井青年は、ある日突然、指導教官だった高橋清先生に呼ばれて、太陽電池の研究をすることになりました。半導体集積回路も太陽電池も物質の中にある電子の性質を利用するという共通点があります。条件によって電気を流したり流さなかったりする半導体の性質を利用して、回路にしたものが半導体集積回路。太陽光が当たったときにそのエネルギーで電子が動き、電気が流れるようにしたのが太陽電池です。

太陽電池は大きく2つの種類に分けることができます。ひとつは「結晶シリコン系」と呼ばれるもので、シリコン(珪素)の結晶をつくり、それを0.2mmほどの薄さにスライスすることで製作されています。家屋やビルの屋根に載っている太陽電池はほとんど、このタイプです。もうひとつは「薄膜系」といって、ガラスなどの基板の上に半導体物質の膜を堆積させて作製します。このタイプだと、シリコンの薄さが結晶シリコン系の100分の1以下であるため、資源の節約やコストダウンが可能となり、また基板の素材を変えることで、フレキシブルなパネルや半透明のパネルをつくることもできます。日本は今、この2種類の太陽電池の研究で、世界最高レベルにあります。

教授は人工衛星などに使われているガリウム砒素太陽電池から研究を始め、1980年からは薄膜シリコン系太陽電池の研究を行ってきました。また、小長井研究室では1985年からは日本で初めてシリコンを使わない薄膜CIGS(銅・インジウム・ガリウム・セレン)系太陽電池の研究に取り組んでいます。

地球人口100億人時代を賄う発電を目指す

現在、研究室では、太陽電池の変換効率を薄膜シリコン系で12%、薄膜CIGS系で18%に上げることに成功しています。これは研究を始めたころに比べると、およそ2倍の値です。しかし、日本が長期ビジョン「太陽光発電ロードマップ」で目指しているのは、2050年に変換効率40%というものです。2050年には地球の全人口は100億人に達すると予測されており、その電力需要を満たすには、1人1キロワット、100億キロワットの発電が必要です。小長井教授の夢は「2050年に、1人あたり1キロワットの発電を可能にする」こと。そのためには、同じ面積でも発電量が多い高効率の太陽電池を、安く高速でつくらなくてはなりません。

研究を始めた当初、教授は「本当に太陽電池が屋根に載るのかなぁ」と夢のように感じていたそうです。また、日本で初めて太陽電池が民家の屋根に取りつけられた1995年頃も、教授が東京から大阪へ向かう新幹線の窓から太陽電池を数えたところ、わずか3軒しか見つけられませんでした。しかし今では、太陽光パネルがついた家々が次々と車窓を通り過ぎていきます。
とはいえ、教授は笑って言います。「太陽電池の研究はまだ折り返し地点です。この研究のおもしろい点は、材料選択や積層技術の開発など、まだやることがたくさんあること」。
浮かんだアイデアをいつでも書きとめられるよう、常に紙と鉛筆を持ち歩きながら、小長井教授は、夢を実現させるために今日も世界中から集まった学生と研究を続けています。

小長井誠

Profile

教授 小長井誠

  • 太陽光発電システム研究センター長。
  • 太陽光発電研究の第一人者で、2009年には文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞。

(2009年取材)

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email : pr@jim.titech.ac.jp