イマを創る、先輩がいる

受け継がれてきた伝統の中の合理性を実感できます 独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所 保存修復科学センター 修復材料研究室 研究員 早川典子

高松塚、キトラ古墳などの壁画の修復に携わっている早川さん。
大好きだという仕事についてお話をうかがいました。

きっかけは、子どものころの体験

―現在の仕事について教えてください。

文化財を修復する高分子材料の分析や選定、開発をする仕事です。絵画、工芸品、建造物などの修復には、必ず高分子材料が使われます。絵画では、でんぷん糊やニカワといった伝統材料から、最近ではアクリル樹脂など。工芸品では、まさにうるしが高分子材料です。

―材料に興味を持ったきっかけは?

私が小さいころ、母が生糸、木綿、化学繊維の糸の違いを教えるために、それぞれの糸を燃やして見せてくれたんです。見た目はみんな同じ白い糸なのに、燃えカスを見ると全然違う。材料によって、こんなに違いがあるんだ! とおもしろく思ったのが、きっかけですね。その後、大学で高分子材料の研究をしていたくらいですから、とにかく材料を扱っているのが、大好きなんですよ(笑)。

―修士課程では、歴史学を専攻されていますね。
なぜ、歴史学を?

私が大学4年生のとき、翌年から歴史学を研究できる新しい専攻ができるということだったので、興味があり専攻しました。研究室では、明治の在来産業について、文献資料からデータベース化して分析する研究をしていました。父が歴史好きで、母が史学科出身だったということもあり、家の中では歴史についての話が多く、昔から歴史に対する興味があったんです。

伝統の中の合理性を実感

―印象に残っている仕事は?

掛け軸の裏打ちや修復などに使われる「古糊(ふるのり)」という材料があります。でんぷん糊を10年間寝かせてつくるもので、元禄時代から使われてきた材料なんですが、なぜこういう性質になるかは知られていませんでした。この「古糊」を分析してデータ化するなかで、伝統の中に合理性が生きていると実感できました。作り方や保管期間など、非常に理に適った方法が選択されていたのです。やっぱり伝統ってすごいなと。それを実際に現場で、新しいやり方として試して、今までできなかったことがブレークスルーできたとき、自分の力が役に立ってよかったなと思いました。この仕事は、自分の好きな「材料」と「歴史」、両方が活かせるので毎日とても楽しく過ごせています。

「材料」と「歴史」が活かせる職場

  • 通常10年かかってつくられる古糊(右)と、早川さんの研究によって2週間で開発された古糊(左)
  • 高松塚古墳の壁画を修復している様子
  • キトラ古墳の壁画(文化庁保管)
  • 上:通常10年かかってつくられる古糊(右)と、早川さんの研究によって2週間で開発された古糊(左)。
  • 中:高松塚古墳の壁画を修復している様子(奈良文化財研究所提供)。早川さんの選定した修復材料が使われている。
  • 下:キトラ古墳の壁画(文化庁保管)。

Profile

  • はやかわ・のりこ
  • (神奈川県出身)
  • 1992年
  • 東京工業大学第3類入学
  • 1996年
  • 工学部高分子工学科卒業
  • 1998年
  • 社会理工学研究科
  • 価値システム専攻修士課程修了
  • 1998年から、東京国立文化財研究所(現独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所)勤務

(2009年取材)